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源平盛衰記
三十七
一の谷落城並重衡卿虜事
東西より火に責られ人に被責て、皆舟にのらんと、渚に向て落行けるも、海へのみこそ馳入けれ、助船有けれ共、余に多こみ乗ければ、大船三艘は目の前に乗沈めける、然るべき人々おば乗すれども、次様の者おば、不れ可れ乗と哼けれ共、暫しの命も惜ければ、若や〳〵とて舟にのらんと取付けるお、太刀長刀にて剃ければ、手折落され、足切折れて、皆海にぞ沈ける、角はせられて死けれども、敵に組て死する者はなし、多は御方打にぞ亡にける、