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松屋筆記
九十一
手ぐすね(○○○)引、天鼠矢(くすね)、保元物語参考〈三巻百十二丁右〉為朝鬼島渡りの条に、為朝折節大事の所労おして、八十余日臥けるが、宜しく成て廿日許の事也、弓勢事の外弱て覚けれども、大鏑お打くはせて、手ぐすね引てためらひ見る程に雲々、井蛙抄、〈六巻廿八丁右〉雑談条に、西行と申ものにて候、法華会結縁のために来て候ヽ今は日くれ候、一夜此御奄室に候はんとて、参て候といひければ、上人内にて、手ぐすねお引て、おもひつる事かなひたる体にて、あかり障子おあけて被出けり雲々、此文、水蛙眼目〈群書類従本廿六丁右〉にも見ゆ、物草太郎草子に、物ぐさ太郎是お見て、援にこそわが北の方は出きぬれ、あつはれとくちかづけがし、いだきつかん、口おもすはヾやとおもひて、手ぐすねにおひき、大手おひろげて待居たり雲雲、これ今俗力おいれんずる時、手につばきばして物お執るお、手油おかふとも、又手ぐすねお引ともいへり、くすね黐(もち)などの類にて、物お付るに、離れざれば、手に執物の落ざるやうに、掌に唾お加ふお、手ぐすねと雲へるなり、