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太平記
十三
兵部卿宮薨御事附干将莫耶事
淵辺畏て承候とて、山の内より主従七騎引返して、宮〈○大塔宮護良〉の坐ける籠の御所へ参たれば、宮はいつとなく闇の夜の如なる土籠の中に、朝に成ぬるおも知せ給はず、猶灯お挑て御経あそばして、御坐有けるが、淵辺が御迎に参て候由お申て、御輿お庭ゆ舁居へたりけるお御覧じて、女は我お失んとの使にてぞ有らし、心得たりと被れ仰て、淵辺が太刀お奪はんと走り懸らせ給けるお、淵辺持たる太刀お取直し、御膝(○○)の辺おしたヽかに奉打、宮は半年計籠の中に、居屈らせ給たりければ、御足も快く立ざりけるにや、御心は八十梟(やたけ)に思召けれ共、覆に被打倒、起挙らんとし給ひける処お、淵辺御胸の上に乗懸り、腰の刀お抜て、御頸お掻そとしければ、宮御頸お縮て刀のさきおしかと〓させ給ふ、