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古事記伝
十四
夫坐は阿具美韋氐(あぐみいて)と訓べし、〈宇知阿具美と、打てふ言お添るもよし、志理宇多牙と訓るはかなはず、〉書紀海神宮段に、寛坐とあるおも然訓り、阿具美は足る結(くむ)と雲ことにて、今俗に丈六かくと雲坐様なり、〈丈六かくとは、丈六の仏像の夫坐より出たるなるべし、又是お予郷の方言に、阿具良加久とも、阿受久美加久とも雲り、阿受久美は足組にて、阿具美に同じ、さて踞は、阿具美韋と訓は宇にあたらず、踞は志理宇多牙なり、志理字多牙とは、尻打挙にて、跖お地に著て膝お立て、〓な浮挙て坐おも雲べけれど、書紀欽明巻に乗踞胡床、敏達巻に踞坐胡床などあるは然は聞えず、是は俗に腰懸ると雲ものなり、物語文などには尻懸とあり、そは足お垂て、臀お物に上坐るなれば、尻打挙と雲なるべし、字書に、拠物坐日踞とある是なり、拠物とは、俗にもれれかヽうと雲ことには非ず、腰お懸ることなり、漢にては腰懸るおも坐と雲、常のことぞ、熱れば書紀に踞其鋒端とあるは、剣鋒に腰お懸坐お雲るにて、此記とはいさヽか異なり、〉夫字は、仏書にも結跏夫坐など常に雲て、阿具美によく当れり、〈さて此阿具美居に二あり、組たる足の末お膝下に敷と、股上へ挙て跖お仰げて組となり、又膝お脇へ張て、左右の足掌お合せても坐る、此も夫の類ひなり、〉さて今此神の如れ此為たまふは、皆天神の御使の、絶れて奇く霊き威徳あることお示せるなり、