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古事記伝
二十五
遇跛盲は、阿斯那閉米志比阿波牟と訓べし、〈盲爾と、爾お添へて雲は、雅言の格に非ず、此事は、上巻伝十六の廿一葉に、例どもお引て委く雲り、〉和名抄に、説文雲、蹇行不正也、訓阿之奈閉、此間雲那閉久と見え、跛おも、説文には同く行不正也と注し、一書に足偏廃とも注せり、又思ふに、此に雲るは、俗にいふ腰抜居去(こしぬけいざり)にもあらむか、字書に、躄お跛甚者とも注し、両足不能行也とも注せれば、不能行者(えあるかざるもの)おも、足那閉(あしなへ)と雲つべし〈万葉二に、葦若生乃足痛吾勢とある足痛おも、師(賀茂真淵)はあしなへ(○○○○)と訓まれき、〉盲は和名抄に、盲和名米之比とあり、〈字鏡には、瞶〓瞍〓〓おみな目志比としるせれど、心得ぬ字どもなり、又眊お目暗ともしるせり、今世にも目久良と雲り、〉さて首途に、跛盲の行遇ふお不吉とするは、跛は行くことあたはず、盲は前途お見ることあたはざる者なれば、共に旅行に殊に忌嫌ふべければなるべし、〈師は此跛盲二字お、二共に路眚の誤として、みちまけと訓むべし、字鏡に、眚先定反、去、生目翳也、麻介とあり、こヽは道のまどはしに遇はむと雲ことなりと雲れしは、心得がたし、かの麻介は目翳とこそあれ、道のまどはしおいかでか然雲む、又道のまどはしにあふと雲も、何事ならむ、たしかならず、且諸本みな跛盲とこそあれ、路眚と作る本はなし、たゞ旧印本に、下なる跛お路と作れども、其も上なるおば、跛と作れば、路は、決く誤字なり、〉