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筆のすさび

一菅谷何某 河相周二が話に、赤穂義人のうち、菅谷何某、国除の後、備後三次にありしが、足跛(○○)、耳聾にて、毎日いでヽ魚お釣り遊ぶお、市童あつまり嘲笑す、かくて半歳ばかりにして、近隣に暇乞ひて出でしが、其後三次の郊外二里ばかりにて、三次の人、他所より帰るに行き逢ひければ、聊の用によりて、故郷へ帰るとていとま乞して過ぎし、其顔色常よりもゆヽしく、足も跛ならず(○○○○○○)、耳もよくきこゆと見ゆ、其人あやしみて人に語りしが、後におもひあはすれば、復讐の前、さらぬ体にもてなし居たるなるべし、