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古今著聞集
十二/偸盗
中納言兼光卿、十二月廿八日に、撿非違使別当になりて、庁務ことにおこし沙汰ありけるに、賤きものヽ小屋にちいさき釜のうせたりけるお、隣なりける腰居(○○)がぬすみたりけると雲つぎありて、贓物おさがし出したりけるに、腰居申けるは、手おもちてこそいざりありき候へ、手おはなれていかでか取侍べき、他人ぞ盗ておきて侍らんと陳じければ、まことに申所理なりと沙汰有けれども、ぬすまれたる者の訴訟つよくて、大理の門前に召出して内問有けり、相論事ゆかざりけるに、別当謀おめぐらして、此腰居中所不便也、たヾ此釜おば腰居にとらすべしと仰下したりければ、腰居悦びて、かしらにうちかつぎていざり出けるおみて、実犯なりけり、かたわ(○○)の身なれども、かくしてぬすみてけるとさとりて、科におこなはれけり、ゆヽしかりけるはかりごと也、