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雲萍雑志

ひとりの躄お車に載せて、十三四歳の子とおぼしきが、綱お肩にかけて曳き、蹴が妻とおもふ女の、幼子お背負ひ、六七歳なる子の手お引きて、道路に食お乞ひぬるお見て、ある人予〈○柳沢里恭〉にいひけるは、かく乞食の分際として、多くの子おまうけ、引つれてよわたりすること、せん方なきものなるべしと笑ふに、予おもへらく、よはさまざまの草の露、うつせばうつるいろいろなれど、よにある人の、親子、兄弟、夫婦の中に、へだてありて、国所お別にして、住居する輩にくらべては、たとひ乞食してなりとも、互にむつまじく、此乞食が如くありたきものなり、おもふに、車おひける子は孝子なり、子お負ひし妻は、貞婦ともいふべしといへば、その人笑おとヾめぬ、