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太平記
三十五
北野通夜物語事附青砥左衛門事
是お聞て十文の銭お求めんとて、五十にて続松お買て燃したるは、小利大損哉と笑ければ、青砥左衛門、眉お頻て、さればこそ、御辺達は愚にて、世の費おも不知、民お恵む心なき人なれ、銭十文は隻今不求ば、滑河の底に沈て永く失ぬべし、某が続松お買せつる五十の銭は、商人の家に止まて、永不可失、我損は商人の利也、彼と我と何の差別かある、彼此六十文の銭一おも不失、凱天下の利に非ずやと、爪弾おして申ければ、難じて笑つる傍の人々、舌振てぞ感じける、