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太平記

僧徒六波羅召捕事附為明詠歌事
為明卿の事に於ては、先京都にて尋沙汰有て、白状有らば関東へ註進すべしとて、撿断に仰て、已に嗷問の沙汰に及んとす、〈○中略〉為明卿是お見給て、硯や有と尋られければ、白状の為かとて、硯に料紙お取添て奉りければ、白状にはあらで一首の歌おぞ書れける、
思ひきや我敷島の道ならで浮世の事お問るべしとは、常葉駿河守此歌お見て、戚歎肝に銘じ(○○○○)ければ、涙お流して理に伏す、東使両人も是お読て諸共に袖お浸しければ、為明は水火の責お遁れて、咎なき人に成にけり、