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太平記
二十一
塩谷判官讒死事
師直〈○高、中略〉、垣の隙より闖へば、隻今此女房湯より上けると覚て、紅梅の色ことなるに、氷の如なる練貫の小袖の、しほ〳〵とあるおかい取て、ぬれ髪(○○○)の行えながくかヽりたるお、袖の下にたきすさめる、虚だきの烟、匂計に残て、其人は何くにか有るらんと、心たど〳〵しく成ぬれば、巫女廟の花は夢の中に残り、昭君村の柳は雨の外に疎なる心ちして、師直物怪の付たる様に、わな〳〵と振ひ居たり、