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倭訓栞
中編四/加
かみあげ〈○中略〉 日本紀に結髪およめり、貫之集に、女四のみこの御髪あげの屏風のうたと見ゆ、はなち髪お初て結ふ事也、是夫への礼也.文選古詩にも、髪お結て夫妻となる、白氏文集にも、守君結髪五載と見えたり、よて結髪おいひなづけの事にも用いたり、また婚礼の時は、さげ髪お礼とし、夫婦の盃すむと髪おあぐるも此意なりといへり、万葉集に童女(うない)はなりは髪上(あげ)らんかと見えて、西土に許嫁笄而字と同じ、伊勢物語に、
くらべこしふりわけ髪も肩過ぬ君ならずして誰かあぐべき、うつぼ物語に、弟の宮は四つ御ぐし肩わたりにてと見ゆ、又陪膳の女官など、すべらかしおあぐるおもさいへり、也足軒の説に、内の女房は晴の時は、髪上とて、釵して髪おいたヾきへ上る也と見えたり、禁中に御髪上の祭といふ事あり、御髪は蔵人此お勤む、臘月に、至り日お撰み、年中の御髪の屑お焼上る也とそ、神代紀に、結髪とあるお、古事記には解御髪と見えたるは、上代に結といひしは、本おあつめ挙て結て、其末は後ろに垂たる成べし、こヽに結とあるは、其末の垂亢るお挙結びたる所お解くなれば、実は同義也、神功紀に、解髪とあるも是也、天武紀に、男女悉結髪と見えたる、頭に結綰(わかね)て髻(もとどり)と成おいふ成べし、よて後の詔に、婦女垂髪于背猶如故とありて、上代の風のまヽ也、万葉集の歌にも、髪あぐる事お多くよめるも、彼本お結と末は垂る也とそ、伊勢物語に、うちとけて髪お巻上てと見えたるは、いやしびたるさま也、落くぼ物語に、主の前に出るごとに、女の髪お垂し事あり、されば内々事おなすにはまきあげし成べし、