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歴世女装考

かもじの事
かもじの本名はかつらといふ、前に引だる源氏末摘花の巻に、九尺のかつら、又枕の草子に、七尺のかつらの赤く〈毛のかれてあかきなり〉なりたるといひしも、みなかもじなり、かづらおかもじといふは、湯巻おゆもじ、内方おうもじなどヽ片名おとりてよぶ事、東山殿比の女言なり、文字には髲と書く、和名抄に、髲、和名加都良、釈名に雲、髪少者所以被助其髪也とあれば、千年以上よりありし物也、又別に鬘といふは、神代には男女とも時の草かつらお髻にかけて飾とし、又は糸にても、あるひは玉おつなぎてもかつらにしたる事、日本紀、古事記、万葉の歌にも見へたり、委しくは本居大人が古事記伝〈巻六〉黒御鬘の解にみえたり、又かづらお中昔はえびかつらともいへり、源氏初音の巻花、ちる里のことお、御ぐしなどもいたくさかりすぎにけり、やさしきかたにあらねど、えびかつらしてそつくろひ玉ふべきとあり、此註に、伊奘諾尊黒御髪の事によりてがつらおえびといふといへり、又中昔は時の生花お糸につらぬき男の冠にかけし事もありて、歌などにもみえたり、かづらは西土にてもいと古し、