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柳亭筆記

男子の髪のゆひぶり名種々〈並〉額月代
近松門左衛門作、加増曾我といへる浄瑠璃節に、少将が男子の髪ゆひにやつしヽ事お載たり、その少将の詞に、但しおぐしの御用なら、大いちやう(○○○○○)、中いちやう(○○○○○)、立かけ(○○○)、なげかけ(○○○○)、千松わげ(○○○○)、五分一(○○○)、せみおれ(○○○○)、かものはし(○○○○○)、さてさかやきは、うしろだか(○○○○○)、うしろさがり(○○○○○)、片われ月(○○○○)、そつはう(○○○○)、しててん(○○○○)、くりびん(○○○○)、のしびん(○○○○)、しやくりびん(○○○○○○)、額にとつては内ぐり(○○○)、そとぐり(○○○○)、すぐびたひ(○○○○○)、なりひらかヾりのすきびたひ○○○○○○○○○○○○○、半こうびたひ(○○○○○○)、月びたひ(○○○○)、たうけんびたひ(○○○○○○○)、角びたひ(○○○○)とあり、是は宝永頃の作にて、のちに引し種々のさうしよりは、近きものなれど、百年前よりいひきたりし髪の風は、おほかたこヽに尽したり、ゆえにまづさきに出したり、〈透額は冠の名なれど、それ在額の名にかりもちひしなるべし、こゝに額といふは、額の抜やうの名なり、〉
海老折 形おもつて名づけたるなるべし、今海老尻といひて、難波にてもつはらおこなはるヽは是か、〈○中略〉仁世物語に、おかし男、つりがみいぼう組、蘆や釜ぶた、とつての助など、知る人にてありける、昔の歌に、蘆や釜ふたのとつては針もなみつけつおくれつさヽできにけり此男、なまものなりければ、それおたよりに、えびの助ども、かヾみあつまりきにけり、此男のかみも、えびの助(○○○○)なりとあり、髪も海老の助とは、かの海老折の事おいふか、たしかにきこえねど、まつ抄録しておきつ、此そうしは、寛永中の作なりといふ、かんなにて書たれば、上(かみ)といふ事かもしるべからず、
蝉折 是も海老折の類にて、形よりいでたる名なるべし、
たてかけ 男色十寸鏡〈貞享四〉若衆の髪の事おいふ条、髪お油にてすきいれぬれば、おのれと底艶あるものなり雲々、たてかけの大たぶさ、髻、つとの大きなるは、似合たると、似あはぬ人あり、