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賤のおだ巻
一男女の髪も、其頃はさま〴〵に替りたり、先男の相応の生れ付にて、前髪のあるうちは、おさへ元結とて、頭の上より元結お掛、左右へ分て耳の後より下げ髪ゆはする人が、両手にておさへてもつ、是は撥下びんとて、若衆はもみ上げの所へ、びんおかき下げ、夫より凡く上へかき上て、扠髪おおさつ好次第にゆひたり、〈紀州の小姓如此、彼小姓の髪は大さうなる結様なりけり、〉扠野郎あたまは、ぞべ本多(○○○○)とて、中剃おいかにも広くそり、髪の間より、中剃のみゆるやうにして、根はゆるくつけ、との間才にして、月代へのぞきたるやうに、まきかけて置たり、多く堺町辺の歌舞妓者のあたまつきにて、歴々にも若き人達は随分其如くゆはせて、上下著て公儀勤る有様、不相応のあたまなり、又豆本多(○○○)と雲は至極髪おつめて、猶少くしてわけおいかにも小さく、豆粒の如く結ふたるなり、又其後遊士俗客ははけお殊の外長くのばして、大抵額へ押付届くほどにしてゆひたり、又だまされた風(○○○○○○)とて、町家の若者などは、鬢口お、甚薄く剃下げ、夫より段々後ろ高にて、髪お結ひたり、是おだまされた風といへり、又巻鬢(○○)とて、鬟の毛お上へ掻上げ、きはにて巻込ゆひたり、いづれもかの文金風より後の事なり、