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安斎随筆
後編六
一未嫁女不結髪 上古はいまだ嫁せざる女は、髪おあげずと見えたり、万葉集に、たちばなの寺の長屋に我いねしうないはなりは髪あげつらんか、とよみ、伊勢物語に、くらべこしふりわけがみも肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき、とよみ、又日本紀允恭天皇紀七年の紀に、皇后是お聞きて曰く、妾初め髪結てより後宮に陪る事、多年お経たりと記さる、文選の古詩にも髪お結て、夫妻となると見ゆれば、和漢其の趣お同す、貞丈按に、髪そぎと雲は、女の元服也、髪おそぐ事は其の夫のする事也、髪あげとて、すべてかしらに髪お垂れて、頂上に髪お持ちあげて、こぶの生ひたるごとくにして、それお結て、釵子と雲て、かんざしおさす事あり、髪そぎの事は、源氏物語に見たり、