[p.0554][p.0555]
歴世女装考

おばこ結 櫛巻
今の市婦等、蛇盤たるやうの状おなして、髪お結ぶおおばこむすびといふ、その名義はおもひえざれど、西土に似たる事あり、〈○中略〉
武野俗談に、宝暦中浅草寺内お福茶や〈今いふ二十間〉に、みなとやお六とて、名だいの女ありて、髪も上手にて櫛おさかしまに巻こみて結けり、是お櫛巻とて、世上の女ゆふ事となれりとあり、明和中、祗徳が句に、櫛巻に春の柳や三日の月、又柳樽〈三編〉櫛巻は娵の身持のくづし初、これらにて其流行したるおしるべしおのれ此書お作るにつけて、むかしの女風おおもひいだすに、二百年前はなににもあれ、一風おこれば、その風三四十年も変ざりしに、百年以来は、十年お不れ期、五十年来は、三年お不待、然なるにかたはづし(○○○○○)の二百年かはらざるは、女装中の美事也、櫛巻といふ髪
此図、安永七年江戸板、鈴木春信画、絵本貞操草にあり、上下二冊の内、櫛巻の女七人あり、此図も、主人と下女と櫛巻なり、此頃、京の絵本にもくし巻みゆれば、三都にはやりしと見えたり、
おばこ結び
今市中の下輩の妻に此風あり