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歴世女装考

丸髷(まるまげ)
髪に結ふふりの名ありしより、およそ百年ののち、伽羅の油といふ物いできてのちは、髪のゆひぶりにさま〴〵の形も名もいりしかど、今世に行れるは、かたはずし、まるまげ、しまだの三様なり、されどかたはつしは下輩に用なし、島田は歯お染て用なし、〈他国の田舎には、老女の島田なるもありとぞ、〉上下老若に宣りて、いと重宝なるは丸髷なり、此まるまげお、かつ山のくづしとするはひが事なり、きのふはむかし〈写本、江戸作、序に元文二年、〉巻二に、今のまるわげはかんしよよりゆひはじむとあり、〈かんしよとかなにてあれぱ、さとしがたし、〉続連珠、〈延実四年板、俳書、〉丸わげか渦まく影の柳髪、〈卜琴〉藤かづらしてや丸曲柳髪〈可道〉などあり、然れば丸曲も百八十余年前よりありへし風なり、されど古図にはすくなし、丸髷、西土は〈いと古し〉唐書五行志に、元和末、婦人為円鬟推髻不設鬢飾、こヽに円鬟とは.まるまげときこゆ、又酉陽雑俎続集〈巻三〉坊正(はうせい)〈人名なり〉叩門五六有丸髷婉童啓迎雲々、丸髻とあるは、乃丸髷なり、西土画にもまたみえたり、