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安斎随筆
前編十一
一刈胎髪 栄花物語第八はつ花の巻に、寛弘五年九月十一日、中宮〈彰子、後に上東門院〉御産の事書たる条に、その日ぞ、若宮の御ぐし始めてそがせらる雲々、是十七日也、御誕生より七日め也、御ぐしそがせらるとは、御うぶ髪お、はさみおもつて刈る事お雲、五六歳になりて、髪のさきおそぐおふかそぎと雲、十五六歳になりて女の髪そぎと雲、祝事也、そぐとは刈る事也、後代にはうぶぞりとて、かみそりにて、胎髪お剃れども、古代には髪そる事はなし、欽明天皇、敏達天皇の御代に、仏法始て渡ち来たりしより、法師になる者、始て髪おそりし也、されば髪おそるは、天竺の風にて、いやしくいま〳〵しき事なれば、小児の髪おも、はさみにて刈りし也、うぶそりとて、剃刀にてするは、後代の風俗也、