[p.0577][p.0578]
歴世女装考

むかしの女は髪の丈長かゆし証拠
古事記応神天皇の巻に、髪長姫の名あり、本居大人の古事記伝に、髪長比売の名の義は字の如くなるべしとありて、別に説なし、されば此髪長姫の髪いかばかり長かりけん、神代には人身の長高かりし事、一の巻にいへり、髪も長かりしとみえて、古事記〈神代の巻〉に、大穴牟遅神お八十神憎み玉ひて、殺さんとたくみ玉ふて寐ましたる時、かの神の髪の毛お臥し玉ひたる室の毎椽に、結著たる事みえたり、〈古事記伝巻十に説ありて、そのまゝ髪の毛の長しとせり、〉されば女はなほさら長かりけんかし、さて八百年の中昔になりても、女の髪今にくらぶれば、甚長く身の長にあまれり、つら〳〵おもふに、むかしは水油のみつけて〈油の事次にいふべし〉かきたらしおくゆえ生延やすく、今はおさなきより油にかためてちヾめ結ゆえ、むかしよりは長からぬにやあらんかし、