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諸国里人談
二/妖異
髪切(○○)
元禄のはじめ、夜中に往来の人の髪お切る事あり、男女共に結たるまヽにて、元結際より切て、結たる形にて土に落てありける、切れたる人曾て覚へなく、いつきられたるといふおしらず、此事国々にありける中に、伊勢の松坂に多し、江戸にても切れたる人あり、予がしれるは紺屋町金物屋の下女夜物買に行けるが、髪お切れたる事いさヽかしらず宿に帰る、人々髪のなきよしおいふにおどろき、気おうしなひたり、その道お求るに、人のいふに違はず、結たるまヽに落てありける、其時分の事なり、