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太平記
十七
山門攻事附日吉神託事
本間小松の陰より立顕れ、〈○中略〉志す処の矢所お少も不違、鎧の弦走より、総角付の板まで、裏面五重お懸ず射徹して、矢さき三寸計ちしほに染て出たりければ、鬼歟神歟と見へつる熊野人、持ける鉞お打捨て、小篠の上にどうと臥す、其次に是も熊野人歟と覚へて、先の男に一かさ倍て、二王お作損じたる如なる武者の、眼さかさまに裂、鬚左右へ分れ(○○○○○○)たるが、火威の鎧に竜頭の甲の緒お縮、六尺三寸の長刀に、四尺余の太刀帯て、射向の袖おさしかざし、後お吃と見て、遠矢な射そ、矢だうなにと雲儘に、鎧つきして上ける処お、