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太平記
十八
春宮還御事附一宮御息所事
船の中なる老共が、あはれ大剛の者哉、主の女房お人に奪はれて、腹お切つる哀さよと沙汰するお、武文が事やらんとは作聞召、其方おだに見遣せ給はず、隻衣引被て、屋形の内に泣沈ませ給ふ、見るも恐ろしく、むくつけ気なる髭男(○○)の声最なまりて、色飽まで黒きが御傍に参て、〈○中略〉兎角慰め申せ共、御顔おも更に擡させ給はず、