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南嶺子

古来は、鬚髪悉剃お僧形とす、日本書紀、古人大兄皇子詣於法興寺、仏殿与塔間、剃除髯髪、被著袈裟と見へ、同紀、天武天皇いまだ大海皇子とて、東宮の時、天智天皇の疑ひお散ぜんとて、剃除鬢髪とありて、ひげかみと訓じたり、因果経曰、過去諸仏、為成就無上菩提故、捨飾好剃鬚髪〈下略〉雲々、然るに今世の僧、信お唯んために、わざと鬚おのばし、頭は僧、鼻より下は俗髯おかざる、頼政の射られし鵺といふは、形の定らぬ物の名といふ説も侍れば、かヽる類もその部に入べきか、