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賤者考
是ら〈○癲人〉の外にも、乞丐中に、盲聾咽唖無手指躄奇疾〈侏儒大瘤〉のくさぐさ見るにもいぶせきもの多し、前条にいふ観物師の属に入るべきもありぬべし、つれ〴〵草に、東寺の門のほとりにかヽる者の集ひ居たるお、はじめは希有に珍らしと見いけるが、ほどなくいぶせくなちて、常に異なる物はよしなかりけりと思ひなして、家にかへりて、つねはめづらしとめで植たりし奇樹などお、皆堀出し捨たりと見えたるがげにさもあるべし、昔よりかやうの者は門のほとりなどによりて、雨露おしのぎもするものなり、奇疾は片羽の意にて、鳥などより出し辞ならむといへり、令に篤疾廃疾といふ下に種類おも出せり、謡曲に弱法師とあるも此類と見ゆ、狂人痴子情狂も女丐は殊に見るもいぶせくうるさし、これらまではたヾちに憂お告て、米銭餐余弊衣汚帯おも乞ふ者なり、