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信長公記

天正三年、去程に、哀成事有、美濃国と近江の境に山中と雲処あり、道のほとりに、頑者(かたはもの)雨露にうたれ、乞食して居たり、京都御上下に御覧じ、余に不便に思食、総別乞食は住所不定、此者は何もかはらず、援に有事如何様可有子細と、或時御不審被立、在所の者に御尋有、所の者由来お申上候、昔当所山中の処にて常盤御前お奉殺候依其因果、先祖の者、代代頑者(かたはもの)と生れて、あの如く乞食仕候、山中の猿とは、此者の事也と申上候、