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岩淵夜話別集

作左衛門〈○本多〉申は、いや、夫は殿〈○徳川家康〉の御申被成事には候得ども、人に依ての義にて候、今年廿も三十も若く候はヾ、殿の様無分別なる人の御供、致すは、いらぬものにて候へども、某儀、当年八十に及び、若時よりあの陣この陣の御供お仕り、片目も切潰され、手の指なども切裂れ、足もちんばになり、世の人の片輪と雲かたわお、身共一人してからげ候得ば、尋常人前のなる事にてはなく候へども、今日迄殿の御情計りにて、御家中にても人がましく罷在候、〈○下略〉