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内科秘録
十三
小児 五軟
五軟は頭軟、項軟、手軟、脚軟、口軟なり、香川太仲之お約称して体軟と雲ふ、身体軟弱にして之お抱くに、頭傾き、或は垂れて正しきことお得ず、骨の無きやうに見ゆるゆえ、俗にほねなし(○○○○)と雲ふ、重き者は臥したるまヽにて、須臾も坐することお得ず、木偶土塑の如く、眼は開きても物お視るに非ず、声お立てヽも喃喃として言語お分たず、飲食も外より養はれ、爾便も告げずして多くは遺失し、頭のみ大にして、身体は削痩し、手足拘急して、脚は左右互に叉お成し、指は左は内へ婁み、右は外へ反り、或は指お口に入て舐り、目中了了たらず、心は痴駿にして親疎お弁ぜず、僅に其父母お識のみ、稍軽き証と雖ども、手指屈伸するのみにて、物お持つこと能はず、扶て起しむるも蹣跚として行くこと能はず、坐せしむるも膝お屈すること能はず、口内含糊にして言ふ所お分たず、軽重共に多くは十五歳に及ばずして弊る、間二三十歳に及ぶ者ありと雖ども、亦夭折お免れず、此証必ず微に上竄驚搐等お発す、又解顱より体軟に変ずる者あり、固より癇に属し、先天の遺毒にして不治なれども、已むこと無んば羚角飲お与ふべし、