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窻の須佐美追加

備中国にて、農家の女、嫁して程なぐ出されければ、外へ嫁しけるが、又出されける程に、父の家に居けり、此女十六七歳なりけるが、生つきすくやかにて男めきたり、心も剛にして、父が村里の夜使などにあたりぬれば、代りゆきて、夜半といへど畏れざけりり、其隣に同じころなる女有しが、いつとなく懐姙しければ、父その夫おさま〴〵とひけるに、初の程はかくせしが、後にはかの女と通じてかくの如くといひけるに、父怒驚き、此事お告てとふに、此女初は女なりしが、いつとなく男になりけるとそ、さて互に争ひて訟出ければ、奉行所にて子細お尋問れしに、父の雲やふ、今迄男になりたるは不存しが、此女生れし時、淫戸の上に少はれだるごとく小き物有しが、年ゆきてさらに不存候、両度迄出されしお何故と存候つるが、かやうのことにても候半かと申に、其女に問れしかば、父が申ごとく、いつしか年たくるにしたがひ、男根となり、近ごろは淫戸弥通じなくなり候と申しかば、さらば養ひて婿とすべし、男子に変ずるは吉瑞なりとて、賜ものありしとぞ、奇異なる事とて、其国の人の語しとぞ、漢京房易、侍女化して丈夫と成られしお陰昌と雲、竹書紀年、殷紂の時、女化して男となる、漢晋宋明にその事有、男の子お生得るも宋明にありしとそ、白石の鬼神論に見えたり、誠に怪力乱神の説にこそ、