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冠辞考
五/多
たまきはる 〈うち いく代いのち○中略〉
万葉巻五に、霊剋(たまきはる)、内限者(うちのかぎりは)、平気久(たひらけく)、巻六に、霊剋(たまきはる)、寿者不知(いのちはしらず)、巻十一に、玉切(たまきはる)、命者棄(いのちはすてつ)雲々、〈此外さま〴〵借字して書る多かれど、意は同じ、〉こは多麻(たま)は魂(たま)也、岐波流(きはる)は極(きはまる)にて、人の生れしより、ながらふる涯(かぎり)お遥にかけていふ語也、故に内の限とも、息内(いのち)とも、幾代ともつゞけたり、さるお後の人、命の今終る極(きは)みおいふとのみ思へるは、此冠辞の本の意にあらず、いかにぞなれば、右の霊剋内限者平気久てふ歌の、憶良の自序に、瞻浮州人、寿百二十歳、謹案此数非必不得過此雲々といひて、遥に百二十お、凡の生涯(いきのかぎり)とするお合せ見よ、且言忌せぬ上つ世といへど、今死に臨むおいふ語ならませば、其人の名に冠らしめてはのたまはせじ、又内の限りは平らけくと、末かけていふのみならず、幾代経ぬらむど、前お遥におもへるさへ有お見よ、