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和字正濫要略
魂 たましひ 万葉第十五に多麻之比、第三の歌に、心神又精神などおたましひと点じたる事はおほけれど、仮名に書て証拠とすべきは、見及びたる中に、これより外になし、魄は多麻とのみよむは、これに之比と付たる詞の意おおもふに、霊の字奇の字おくしびとよめり、是お上略してそへたるか、又魂の字おむすびともよめり、神皇産霊(かむみむすび)お神御魂とも書り、高皇産霊お高御魂ともかけり〈○中略〉奇の字くしとのみもよむに、又くしびともよむは、此国に日おあやしくたふとき事の限りにいへば、奇日方(くしひかた)といへる事も有、此奇日(くしひ)お上略して付たる歟、魂は神妙の物なれば也これも俗書にたましいと書べきよしいひ、また世にさやうにもかくに、古き物にいお用たる事、更にみえねば、証あるお引て、これお正し置也、