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平家物語

太宰府落の事
平家小舟共に取乗て、よもすがら豊前の国、やなぎがうらへぞわたられける、〈○中略〉神無月のころほひ、小松殿の三なん左中将清経は、何事もふかう思ひ入給へる人にておはしけるが、ある月の夜、ふなばたに立出て、やうでう音鳥らうえいして、あそばれけるが、都おば源氏のためにせめおとされ、ちんぜいおばこれよしがためにおひ出され、あみにかゝれる魚のごとし、いづちへゆかばのがるべきかは、存へはつべき身にもあらずとて、しづかに経よみ念仏して、海にぞしづみ給ひける、