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源平盛衰記
四十
中将入道入水事
三位入道三の山の参詣、事ゆへなく被遂ければ、浜宮の王子の御前より、一葉の舟に棹さして、万里の波にぞ浮給ふ、遥かの沖に小島あり、金島とぞ申ける、彼島に上りて、松の木お削つヽ、自名籍お書き給ひけり、平家嫡々正統小松内大臣重盛公之子息、権亮三位中将維盛入道、讃岐屋島戦場お出て、三所権現之順礼お遂、那智の浦にて入水し畢、
元暦元年三月二十八日、生年二十七と書給ひ、奥に一首お被遺けり、 生ては終にしぬてふ事のみぞ定なき世に定ありける、其後又島より船に移乗、遥の沖に漕出給ぬ、〈○中略〉念仏高く唱給、光明遍照、十方世界、念仏衆生、摂取不捨と誦し給ひつヽ、海にぞ入給にける、与三兵衛入道、石童丸も、同連て入にけり、