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大鏡
六/内大臣道隆
この殿〈○藤原道隆〉の御上戸はよくおはしましける、その御心のなおおはりまでもわすれ給はざりけるにや、御病付てうせ給ひける時、西にかきむけたてまつりて、念仏申させ給へと、人々のすゝめたてまつりければ、済時朝光〈○二人並酒友〉などもや、極楽にはあらんずらんと、仰けるこそあはれなれ、常に御心にならひおぼしたる事なれば、あの地獄のかなへのふたにかしらうちあてゝ、三宝の御名おもひ出けん、人のやうなる事なりや、