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徒然草

四季はなおさだまれるついであり、死期はついでおまたず、死は前よりしもきたらず、かねてうしろにせまれり、人皆死あることおしりて、まつことしかも急ならざるに、おぼえずして来り、沖のひかたはるかなれども、礒より塩のみつるがごとし、〈○中略〉
人あまた有ける中にて、あるもの、ますほのすゝき、まそほのすゝきなどいふ事あり、わたのべの聖、此ことおつたへしりたりとかたりけるお、登蓮法師、其座に侍りけるがきゝて、雨のふりけるに、みのかさやある、かし給へ、彼薄のことならひに、わたのべのひじりのがり、尋まからんといひけるお、あまりに物さはがし雨やみてこそと、人のいひければ、無下の事おも仰らるゝ物かな人の命は、雨のはれまおも、まつものかは、我もしに、ひじりもうせなば、たづねきゝてんやとて、はしり出て、ゆきつゝ、ならひ侍りにけりと、申伝たるこそ、ゆゝしく有がたうおぼゆれ、