徒然草

上

あだし野の露きゆる時なく、鳥部山のけふり立さらでのみ、住はつるならひならば、いかに物のあはれもなからん、世は定なきこそいみじけれ、命ある物お見るに、人ばかりひさしきはなし、かげろふの夕おまち、夏の蝉の春秋おしらぬもあるぞかし、つく〴〵と一年おくらす程だにも、こよなうのどけしや、あかずおしと思はゞ、千とせお過すとも、一夜の夢のこゝちこそせめ、すみはてぬ世に、見にくき姿お、まちえて何かはせん、命ながければ辱おほし、ながくとも、四十にたらぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ、其ほどすぎぬれば、形おはづる心もなく、人にいでまじらはんことお思ひ、夕の日に子孫お愛して、さかゆく末お見んまでの命おあらまし、ひたすら世おむさぼる心のみふかく、物のあはれもしらずなり行なんあさましき、