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石田先生事蹟
先生〈○石田梅巌〉常に門人へ自己の性お知るべき由お説き給へども、之お信ずる者才に二三人なりしが、中にも斎藤全門ふかく信じ、日夜如何いかんと工夫おこらしけるに、ある夜ふと太鼓の音お聞て性お知れり、援においてます〳〵信お起し、日々に養ひしかば、漸々にして徹通せり、故に全門信お尽し朋友お助くれども、猶志立たざりける、木村重光は初より篤く信じけるゆえ、年月おかさね工夫熟せしにや、或冬障子お張りいて、頓に自己の性お知り、大によろこびて先生の許に至り、自ら得る所お呈す、
はつといふてうんといふたら是はさてはれやれこれはこれはさて〳〵、先生此時、重光が性お知ることお許し給へり、是より門弟子、端的に性おしることお実に信じ、工夫に心お尽し、信心髄に徹しぬれば、おの〳〵寝食おわすれ或は静座し、あるひは切に問ひ、日あらずして性お知る者おほし、
先生門人の性お知れる者に告げて曰く、学は為すところ、義か、不義かと省みて、義にしたがふのみ、義お積ずして性お養ふことは、聖人の道にはなき事なりと、常に示し給へり、