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三徳抄

四端出於理、七情出於気と雲事あり、四端とは仁義礼智のあらはるヽ処お雲也、七情とは喜怒哀懼愛思欲おいふ也、人の心は隻道理までにてあるゆへに、七情出来する也、七情には善と惡とあり、四端にめ善ばかりにして悪なし、此七情お道理のまヽにすれば、仁義にかなひてよけれども、血気の私にひかさるヽときは、七情ほしいまヽになりて、理にそむきて喜ぶ故に、よく分別して、七情お理にかなへてなせば、いづれもあしきことなし、理ばかおにては、うごきはたらきがたし、理と気お合せて心とすれば、よくうごきはたらく也、たとへばおもきものお、一人してもちあげがたきところに、二人の力お合せてあぐれば、必ずかるくなるごとく、此理と気とお一つに合せて、心より気お用るときは、心づよくなりて、おのづから僻事あるべからず、親に孝行おするは心の理なり、若又親にいかりおあらはすは、是血気の私なり、是によつて理と気との差別お知るべき也、