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訓幼字義

情 凡九則
情といふは、人心の上に就て、思慮安排にわたらず、生れ付たるまゝにて、いつはりかざることなきところおいふ、世間の人、物おうぶといふがごとし、礼記礼運の篇に、何謂七情、喜怒哀楽愛悪欲、七者不学而能と、是にて其義もつとも明らかなり、先儒の説に、心之未発お性と雲、巳発お情と定めらるゝは、是も張子心統性情の説より出たる事にて、宋朝以来其説一定し、かたく此説お守れども、古人の意にあらず、大抵宋儒以来、事ごとに体用、理気、未発已発の分お立らるれども、聖人の言には、天道人事の上に、気おいひて理おとかず、用おいひて体おかたらず、已発の説ありて未発の説なし、