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難波江
一愛憎の変と申すことあり候、我園の花は、野山の花よりまされるやうに思ひ候が、愛憎の変と申し候、是も人と我と、隔てあふ故にて候、誠に惑の甚しきことにて候、そのかみ弥子瑕は、衛の君に愛せらる、或とき弥子瑕が母、疾ありて、人ゆきて夜告げしかば、弥子瑕いつはりて、君の車に乗りて行きしお、衛君かへつて孝なりとて称誉す、又一日、弥子瑕、果お食ひしに、甘しとて、食ひかけし果お君に奉りしかば、衛君また忠なるよしお以て称しぬ、弥子瑕寵お失ふとき、まづ此二つお以て罪せられしとぞ、愛憎の変、よく〳〵慎み思はるべく候、