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増鏡
十六/久米のさら山
隠岐よりは、たまさかの御消息などのかよふばかりにて、〈○後醍醐、中略、〉かしこにまいり給へる内侍三位〈○後醍醐後宮藤原廉子〉の御腹にも、みこたちあまたおはします、いづれもいまだいはけなき御程にはあれど、物おぼししりて、いみじう恋聞え給ひつゝ、おり〳〵はしのびてうちなきなどし給ふ、おさなうものし給へば、とおき国まではうつしたてまつらねど、もとの御うしろみおばあらためて、西園寺大納言公宗の家にわたしたてまつる、八になり給ふぞ御このかみならむかし、北山におはする程、夕ぐれのそらいと心すごう、山風あらゝかにふきて、常よりも物かなしくおぼされければ、
庭松綠老秋風冷 園竹葉繁白雪埋
つく〳〵とながめくらして入あひのかねのおとにも君ぞこひしき、おさなき御心にはかなくうちひそみ給へる、いとあはれなり、〈○又見太平記〉