[p.0731]
壒囊抄

少しえむお、ほくそわらいと雲は何事ぞ、
北叟が笑おほくそ咲と雲成せる也、喩へば昔唐世に一の老翁あり、王城の北に居する故に是お北叟と雲、塞翁が事なるべし、此翁は世間無常お観じて、君に仕て名利お貪る心もなく、私お顧て財宝お貯る思もなし、可歎事にも少し笑ひ、可喜事にも少し咲ふ、是悦も憂へも皆不久、万事皆夢なる理りお能知て、一切の事昌少しわらふ也、是お俗語にほくそわらいと雲なるべし、