[p.0733][p.0734]
古事記伝

歓喜咲の三字お恵良岐(えらぎ)とよみ、楽字お阿蘇夫(あそぶ)と訓べし、〈○註略〉恵良具(えらぐ)とは咲栄楽(えみさかえたぬし)むお雲、続紀廿六、大嘗祭豊明の詔に、黒紀白紀能御酒乎(くろきしろきのおほみきて)、赤丹乃保仁多末倍恵良伎(あかにのほにたまへえらぎ)雲々、又卅の詔にも、黒紀白紀乃御酒食倍恵良伎(おほみきたまへえらぎ)雲々と見え、万葉十九〈四十三丁〉に、豊宴見為今日者(とよのあかりみしせすけふは)雲々、千年保伎保伎吉等余毛之恵良々々爾仕奉乎見之貴佐(ちとせほぎほぎヽとよもしえらえらにつかへまつるおみるがたふとさ)などあり、書紀に、谷楽とめるおも訓、又雄略巻に、歓喜盈懐(えらぎます)ともあり、〈今此記に、上なる二はたゞ咲字のみお書るは、和良布と訓つ、さて此には歓喜字お加へたるは、恵良具と訓べきた、り、上なるは俳優のおかしきお笑ふなり、えらぐに非ず、次なるはえらぐとてもありぬべけれど、なほ咲一字なればわらふなり、さてこゝは宇受売命の謀て申す詞にて、己が俳優と、諸神の咲とお合せて、真実におもしろく、楽みあそぶさまにいひなせるなり、故歓喜二字お加へたり、心おつくべし、〉