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新武者物語

富田蔵人討死の事
富田蔵人は、比類なき武勇の者なり、新関白秀次の寵臣也、しかるに秀次生害有しかば、蔵人も謝恩の為殉死すべしと、北野経堂の前に出て、すでに切腹せんとする所お、家来ども大勢来りて蔵人お駕に推入、いづくともなくつれて退、京中の貴賤見物に聚りたる者ども、みな掌撫て大笑し、日本一の億病者かなと、珍敷物語とだにいへば、諸人語て笑ひ種とす、