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近世奇人伝

戸田旭山
旭山戸田氏、自号無悶子、通名斎義、東備の人、浪華にきて医お業とす、〈○中略〉あるとき摂津国高槻近邑の豪農、物産の門人にてつねに出入する人、其母の病の胗察おこふ、請に応じて至りしが、不起の症なれば辞して帰らんとするとき、近隣又親族の病人、これかれの胗察おこふ、四五人は胗したるが遠く迎えたる人なれば、此折お幸に尚医治おこふもの多し、こゝにして戸田氏怒お発し、主人に対しのゝしりていふ、子は不孝者也、不起の母お題して、えもしれぬ人々の医治おせしめんとするかと、元来癇症にて、よく怒る人なれば、大きに顔色お損じたれば、やう〳〵になだめて謝してかへせり、〈○下略〉