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沙石集
九下
迎講事
丹後国普申寺と雲所に、昔上人有けり、極楽の往生お願て、万事お捨て、臨終正念のことお思ひ、聖衆来迎の儀お願ひけるあまり、せめても心ざしの切なるまヽ、世間の人は、正月の初は思ひ願ふことお祝事にする習なれば、我も祝事せんとて、大晦日の夜、一人つかふ小法師に状お書てとらせけり、此状お以て朝夕元日に門おたヽきて物申さんといへ、何くよりと問ば、極楽より阿弥陀仏の御使也、御文ありとて、此状お我にあたへよと雲て、御堂へやりぬ、教の如くに雲て、門おたヽきて約束の如く問答す、此状お急ぎあはてさはぎ、はだしにて出て取て頂戴してよみけり、娑婆世界は衆苦充満の国也、はやく厭離して念仏修善勤行して、我国に来るべし、我聖衆と共に来迎すべしとよみつヽ、なめほろと(○○○○○)、なき(○○)〳〵すること毎年おこたらず、