[p.0758][p.0759]
孝義錄
四十九/肥後
孝行者権三郎阿蘇郡小国の郷赤馬場村の百姓孫左衛門なるもの、六人の子おもてり、その末の子の権三郎、孝心ふかきものなりしかば、〈○中略〉母の性毛虫お恐るゝ事甚しく病の中は猶さらなり、ある日家の上に毛虫あり、取てすてよといふに、権三郎とく家根に上りみて、みえざるよしおいへば、さあらば市原村の吉蔵およびて、みてもらへかしといふ、かしこまりつといひて走り行、吉蔵おつれ来りてみせしに、いよ〳〵みえずといふにぞ、はじめて母の心お安んじける、