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類聚名物考
人事一
嗜好
凡そ人の心の好む所各同じからず、猶面の人々同じからざるが如し、されば世の人の耽著のおもむき、敢て諫るにあらざる歟、古人の辞にも、昼短苦夜長、何不秉燭遊といへるは、賞玩に耽るものなり、又は百年三万六千日、一日須傾三百杯といへるは、曲蘖に耽る者なり、或は野客吟残半夜灯とは、詩賦に耽るものなり、長夏惟消一局棋とは、博奕に耽るものならずや、また和歌にも、なかなかに恋に死なずば桑子にぞといへるは、好色の道に耽るものなり、〈○下略〉