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円珠庵雑記
春の夢は、よくあふよしにあまたよめり、後撰に、ねられぬおしひてわがぬる春のよの夢おうつゝになすよしもがな、
真淵雲、後世む月の初夢とて、こゝろむるも、春の夢はあふとての事か、又初めてみる夢の事おいふも、少しさいつころよりいへば、春の夢てふ名のみか、詩にも春夢と作れり、それよりうつれるか、〈○中略〉
伊勢集に、春のよの夢にあへりとみえつれば思ひたえにし人ぞまたるゝ、兼盛集に、思ひつゝねいればみえつ春のよのまさしきゆめ(○○○○○○)にむなしからずな、六帖第五、春のよの夢はわれこそたのみしか人の上にて見るがわびしき、西行法師山家集にも、年くれぬ春くべしとは思ひねにまさしくみえてかなふ初ゆめ、これらにてしるべし、