[p.0797]
平治物語

清盛出家事並滝詣附惡源太成雷電事
同〈○仁安〉二年七月七日、摂津国布引の滝見んとて、入道お始て、平氏の人々被下けるに、難波三郎計夢(○)見惡(○○)き事有とて供せざりしかば、傍輩共弓矢取身の、何条夢見物忌など雲、さるおめたる事や有と笑ければ、経房も実もと思て走下、夢覚て参たる由申せば、中々興にて、諸人滝お詠て感お催す折節、天俄に曇り、火しく、はたヽがみ鳴て、人々興おさます処に、難波三郎申けるは、我恐怖する事是也、先年惡源太最後の詞に、終には雷と成て、蹴殺さんずるぞとて、にらみし眼常に見へて、六箇敷に、彼人いかづちに成たりと夢に見しぞとよ、隻今手鞠計の物の、巽の方より飛つるは、面々は見給はぬか、其こそ義平の霊魂よ、一定帰ざまに経房に懸らんと覚るぞ、左有とも太刀は抜てん物おと雲もはたねば、霹靂火しくして、経房が上に黒雲掩とぞ見へし、微塵に成て死にけり、